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最高裁判所第三小法廷 昭和36年(オ)1214号 判決 1963年3月03日

上告人 田中不二雄

被上告人 東京国税局長

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人弁護士野間繁の上告理由第一について。

原判決が、上告人は、昭和二三年九月から編機の製造販売とその編機を使用する編物講習の事業を営むに至つた事実を認定したのに対し、論旨は、上告人は、名儀上、東洋編物普及会の会長になつたけれども、事業を経営したのではない旨を主張し、また、原判決が、上告人は昭和二五年一一月二七日東京高速編物株式会社を設立し、編機の製造販売の面を移譲したが、編物講習事業はなお営んでおり、昭和二六年末までは編物講習事業による収入があつた旨を認定したのに対し、論旨は、右会社設立後は、編物講習事業も会社の事業であつて、上告人の事業ではなかつた旨を主張する。そして、論旨は、原判決の右の認定は、証拠判断をするに当り経験則を無視し、信用すべからざる証拠乃至依るべからざる証拠によつて事実を認定し、重大な事実誤認をした違法があるという。しかし、原判決挙示の証拠によれば、前記原判決の認定は十分に首肯することができる。論旨は、事実審の専権に属する証拠の取捨、事実認定を非難するに過ぎず採用の限りでない。なお、論旨中、憲法三八条違反がある旨を主張しているが、憲法三八条が本件に関わりなきことおのずから明らかである。

同上告理由第二について。

論旨は、被上告人は上告人の所得について合理的な立証を果すことなく、非合理的な立証を試みたのであるにかかわらず、原判決が、その立証に基いて事実を認定したのは違法であり憲法三〇条の違反があるというのである。

所得の存在及びその金額について決定庁が立証責任を負うことはいうまでもないところである。しかし、原判決の引用する一般判決によれは、上告人は、税務官吏の所得の調査に際し、課税の資料となるべき書類や帳簿を一切皆無であると称して提示しなかつたのである。このような場合に、できるだけ合理的な方法で推計するよりほかないことは原判示のとおりである。そして、原判決は、被上告人の推計の当否を判断するため、証拠資料に基いて上告人の収入、所得を推計しており、その判断は合理的であつて、少しも違法とすべき点はない。論旨は憲法三〇条違反を主張するのであるが、その前提において理由がない。

上告人の上告理由について。

論旨は、原判決の認めていない事実を前提とし、独自の立場に立つて原判決を非難するものであつて採用の限りでない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判官 河村又介 重水克己 石坂修一 横田正俊)

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